2007年02月25日

頼りないこの足取りで。

福永武彦の「忘却の河」読了。
彼の長編を読んだのは初めてだったけれども、とても良かった。
(やはり親子だなあ、と思ってしまうのは偏見か。)
フランス文学をやっている人、というのが丸出しだったのもなんだか微笑ましくてよかった。

でもあなたはわたしのことを決して忘れないわね。
僕は決して忘れないよ、と彼は言った。
僕は決して忘れないよ、と私は言った。


こんな他愛もない、ありがちなフレーズがずしんと響く。
そう、何度でも何度でも私たちは繰り返し同じ約束をする。
出来っこないことを約束する。
記憶はやがて風化して、美化されて、崩されて、再構築、
忘れられてしまうのに、それでも「忘れない」と心は誓う。
私はそれを美しく、悲しく、そして人間臭くて愛しく思う。
忘却の河に捨てる過去、しがみついていたくても此処にはなく、
また永遠に逃れられることもない。

私は昔から必要以上にセンチメンタルでノスタルジックな気持ちが好きだった。
暇さえあれば、後ろを振り返るか空想するか。
それでも、最近はいろいろなことが身の上に降ってきて、
今現在を見つめて、先を思って選択を急ぐ事ばかりで、
振り返ることを忘れていた。

金曜日、神楽坂のVELOCEでアイスコーヒーを呑みながら、
「忘却の河」を読んでいたとき、
まるで本のテーマや自分の受け止め方とシンクロするように、
懐かしいあの人の匂いを見つけた。
目頭は一瞬で熱くなる、涙がこぼれそうになる。
隣のおばさんがジャムサンドを食べる姿すらせつなく想う。
それで、自分が振り返ることを忘れていたことに気づいたのだ。

振り返るのは、心に時間にゆとりがあるから?
きっとそうだろう。
余裕のない、にんじんを追いかける私は、一番落ち着く場所を失いつつあったのかもしれない。
それとも、必要ないと、忘却の河に投げ捨てたのだろうか。

ワタシ。
posted by S at 01:52| ロンドン ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「忘れないで。」「うん、絶対に忘れないよ。」「ずっと大切だよ。」「ずっと愛してるよ。」

・・・もう何回自分に言ってきただろうね、ワタシとかさ(笑)。でも、一瞬でもそうありたいと思ったその心が、そう言わせたその関係がとても優しく、いとおしいよね。

最近、人に心を開くことを極力避けてるの。でもやっぱり、ワタシは一人では生きられないんだけどね。ハァァ・・・。
Posted by エリコ at 2007年02月27日 05:49
どうしたの、疲れてるの?
わざわざみんなにわかってもらおうとしなくたっていいよ。
どこかで誰かに優しくなれれば、
どこかで自分に優しくなれれば、それでいいよ。

ワタシは、忘れていくことを分かっていて、
それでも忘れないと誓いたいと思う、そういう人間の儚さが素敵だと思うよ。
Posted by S at 2007年02月27日 23:38
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